墓参り

田舎に帰る度に墓参りするのが恒例である。宗教心は丸でなく死者に対して何の感慨もないが、親が当然の如く促すので仕方なく付き合ってる。

墓地は集落から幾分へだった寺の裏手の山の中にある。なだらかな地形のため戦後になって開墾が推し進められ、今でこそ開墾地の一画を占めているだけに過ぎないが、子供の頃は墓所の周りだけは鬱蒼とした木立に囲まれていた。
そして今は取り壊されてしまったものの、当時は墓地の直ぐ近くに火葬場(「焼き場」と呼んでいた)があり、子供心には気味が悪い場所であった。

とは言っても、幽霊や火の玉を見たとの話を聞いた覚えはない。「幽霊が出るぞー」とか「幽霊が付いてくるぞー」と驚かされたことはあったかもしれないが、そういったことより穢れや不浄への恐れが強かったような気がする。

それはさて置き、親は分家のため先祖代々の墓はない。しかしそれでも墓地のスペースには墓石が鎮座している。親は両方とも生存してるので骨はまだ入ってないものの、墓石には戒名らしきものが刻んである。
この戒名に相当する人物は一番上の兄弟だが、死産(流産)であったので当然籍にも入っておらず、正式な戒名も貰ってはいない。本来ならば墓石を建てるまででもないのだが、子供を当てにしないで墓だけは建てておこうと思ったためにそのようにしたそうである。

そのような経緯なので墓参りと言っても死者の顔すら思い浮かべることはできないものの、墓石に水をかけ、花を手向け、線香を立てる一連の動作だけは一通り行うのが恒例化している。
また近くには親戚の墓もあるのでついでにお参りすることもあるし、40歳に達する以前に亡くなった竹馬の友の墓にまで赴くこともある。しかし死ねばそれで終わりと捉えているので、墓石に相対しても特別の感情を抱いたことはない。
2005年08月28日