プロバイダー責任法案についての意見書

以下の記述は総務省に送りつけたものと同文である。
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4月18日付け朝日新聞に以下の記事が掲載されていた。
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 総務省は、インターネット上でプライバシーを侵害したり、他人をひぼう中傷したりする情報を規制するため、被害を受けた人が接続事業者(プロバイダー)に情報の削除を求められる制度と、損害賠償訴訟を起こす際に必要な送信者情報の開示請求ができる制度をつくる。今国会への提出を目指すプロバイダー責任法案に盛り込む方針だ。

 削除請求を受けたプロバイダーは、情報の送信者にその旨を通知し、自らの責任で情報を削除できる。送信者は1〜2週間以内に反論の申し出ができる。

 被害者がプロバイダーに送信者情報の開示を請求できる制度も設ける。

 ネット需要の拡大の中で、今後こうした情報の削除や送信者情報の開示要求は増えるとみられるが、現在は業界内の自主ルールしかない。総務省は、制度化して被害防止を目指す考えだ。ただ、法案の提出は、国会日程が自民党総裁選をはさんで流動的なこともあり、秋の臨時国会にずれ込む可能性も出ている。
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そのため総務省のウエブサイトに赴いたが報道発表の中には該当する資料はなかった。そこで色々と探した結果、郵政省時代の調査研究において「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会法制検討チーム」と題した一連の資料を発見できたものの、何故「堂々と報道発表しなかった」のかは理解に苦しむところである。

しかしながら同様な趣旨の研究会「電気通信サービスの不適正利用に係る発信者情報の開示についての考え方」が98年の末頃に行われ、コメントバックを募集して意見を広く求めたものの結果的には日の目を見るまでには至らなかった状況と照らし合わせるならば、下手に公表してまたもや頓挫してしまうよりはと、一般大衆が気が付いた時には後の祭の如く「密かに推し進めてしまおうと企んだ結果」と見なすべきなのかもしれない。

「電気通信サービスの不適正利用に係る発信者情報の開示についての考え方」研究会でのコメントバック募集時には私も意見を提出したが、私のウエブサイトではその時の意見も含めた解説記事を現在も提示し続けていて、これまで幅広い人達から私の意見に賛同する意見を多数頂いている。
それがまたもや性懲りもなく「本質を隠した紛い物」を推し進めようというのでは、総務省と名称が変わっても相変わらずの芸なしであり、同時に総務省官僚と業界との癒着構造までもが引き継がれていることをまざまざと物語るものである。

さて本題に入る前に、総務省のウエブサイトには明確な法案は提示されておらず、朝日新聞が掲載した記事におのずと沿うしかないと断っておく。

「中傷された・誹謗された・プライバシー侵害だ」との声をプロパイダが受けた時、送信された情報及び申し立て理由の真偽を判断するには優れた人材の確保と共に長期間の吟味を必要とする。ところが朝日新聞の記述
> 削除請求を受けたプロバイダーは、情報の送信者にその旨を通知し、
>自らの責任で情報を削除できる。送信者は1〜2週間以内に反論の
>申し出ができる。
>被害者がプロバイダーに送信者情報の開示を請求できる制度も設ける。
では、申し立てさえれあれば「プロパイダが独断」で削除や送信者情報の開示を行え、しかも送信された情報の真偽に付いては考量しなくても良いと言うのと同じである。これでは「情報統制ならびに思想弾圧」を目的とした者達を喜ばせるだけだ。送信された情報が事実であっても「中傷だ!」と叫べば良いだけなのだから。
しかもプロパイダ独自に審議させることは、プロパイダの審議能力や審議過程について感知しないというのと同じであり、例え恣意的判断が行われていても知る手立てがないというのと等しい。

現在刑事犯罪において裁判所の捜査礼状があれば、警察はプロパイダに対して送信者情報の開示を求める事ができる。しかし法的な了承がないままの開示要求に対してもプロパイダが応じなければならないようにしてしまうなら、捜査礼状が発行されなくても警察は疑わしいという理由だけで送信者情報を手に入れられる道も開いてしまう。
これでは法案の名目はどうであれ、「大衆を管理し思想弾圧に心がけている公安警察」を益々のさばらせてしまうだけだ。またその一方で後ろ暗い者たちが送信者を突き止めて、闇から闇へと葬ってしまう事も可能なり、引いては「暴力団の資金源確保」の道を新たに設けるのと等しくもなろう。

中傷されたというのであれば反論すれば良い。反論こそが相手の主張を叩き伏せるもっとも効果的な方法であって、反論もできなくて中傷だと叫ぶのは事実と認めているのに等しい。森総理の訴訟だって、警察庁に売春の犯罪歴のないことの証明を求めようとしなかったのは、結局は学生時代に売春斡旋していたことを当人の森総理は事実として認めていたからだろう。

誹謗とは「そしること。悪口を言うこと」であるが、誹謗を即問題としてしまうのは時として事実を押し隠してしまうことに通じてしまう。例えば「森総理は学生時代に売春斡旋をしていた」は誹謗に相当すると言えなくもないが、同時に公人としての森総理の人間像の一面を正確に示している表現でもある。そして同様なことは、古くにおいて米国大統領クリントンの女性問題に付いてのポルノ紛いの言及にも見られたことである。
だから「当人にとっては耳の痛い」ことであっても、真実について語る場合においては避けては通れないのであって、年端の子供に対して「悪口はいけません」などと言い聞かせるようなレベルとは比較すら出来ないのである。
そしてまたプライバシー侵害についても、その情報がどういった方法で得られたかによって内実的に差が生じるのであって、本人自らが開示した情報や悪事を暴いた情報までも区別なく封印してしまおうというのでは世の中を暗闇に閉ざしてしまおうと言うのと同義である。

しかし現実においては身に覚えのない中傷やプライバシーの侵害を受けている人もいるわけで、こういった「人達に対してのみ救済の道」を開くのであればそれ相応の手立てが必要である。そのためには邪まな思いによる情報統制や思想弾圧の発生を限りなく押さえるのが肝要であり、総務省が腹案としている法案では邪まな思いの者達に便宜を図る道を開くのにも等しいだけだ。

その手立ての第一としては「反論の勧め」である。つまり事実無根という申し立てに対しては送信者に対しての反論の機会を整備する事であって、例えば送信者に対して反論文への「リンクの義務付け」を課すようにすることだ。そうすれば第三者は両者の意見を相互に見比べることが出きるので、片一方の情報だけを鵜呑みにしてしまう機会を極力減らす事が可能になる。
そしてプロパイダは申し立てがあれば情報の送信者に連絡してリンクを張るよう要請し、一定期間経ってもリンクを張る様子が見られなければ削除すれば良い。

第2として訴訟手続きの改正であり、送信者がどこの誰かが分からなくても訴訟を起こせるようにすることだ。つまりプロパイダは訴訟の前段階として裁判所から開示要求を受けた場合のみ「裁判所に対して送信者情報を開示し」、裁判所は原告に対しては送信者情報を開示しない方法である。
このようにすれば「悪意ある者が訴訟を起こすとの口実」でプロパイダから送信者情報を入手しようとするのをある程度は防止できるはずだ。

しかし中には話しが公になってしまうのを好まず情報の削除だけを希望する人もいるかもしれないので、このような場合のために第3の手立てとして判事などが参加した公的な審議の場を設ける方法もある。
つまりインターネット上に審議の場を作って「送信者が拒否しない限り公開」とし、また悪意ある者たちの利便に繋がらないよう送信者及び受け手ともに匿名で行うものとする。ただ裁判ではないので仲介者となる判事には特別の権限を付与せず、判事が送信者や受け手の意見を聞いて判断するに留めるのではなく、送信者や受け手からの意見に対しても応える義務を課す必要もある。
それは判事という肩書きであっても洞察力や判断力が一般人より常に勝っているとは言い切れないので、愚かな判断をして失笑を買い裁判所の権威の失墜に繋がらないようするためである。
そしてまた審議に判事を参加させる事は、世間の実情には疎いと言われている判事に勉学の機会を提供することにもなるだろう。

さて最後に、プロパイダだけに判断を任せればどういった事態を招いてしまうかは私のウエブサイト(こちら)のNo.983「PC−VAN事務局の恣意」で一例として紹介しているし、また反論というまともな方法を採択しないとどんな行為が大ぴらに行われるようになるかに付いては同じく(こちら)の「NIFいちの論客アホツ大先生VANでボロを出す」にその一例が含まれている。

しかし総務省としては、一部のプロパイダの便宜を図ることによって天下り先の確保を意図するために今の法案を国会に提出するつもりだというのであれば、プロパイダが送信者情報を開示しために送信者が殺人や傷害などの被害を受けた時には「国家賠償の責を負うものとする」と付け加えておくべきだ。
そうでないと将来的において、薬害エイズを問われた官僚と同じような状況に負い込まれるかもしれないぞ。

尚、この意見書は私のウエブサイトで公開する事を付け加えておく。
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2001年05月07日